イスラエル特殊部隊がレバノン東部襲撃、数十人殺害とレバノン当局 40年間不明の空軍兵捜索のためと

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アリス・カディ上級国際担当記者(ナビシート)
イランが支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘が激化する中、イスラエルは7日にかけて、レバノンに大規模な空爆と地上作戦を展開した。数十人が殺害された。
レバノン保健省によると、イスラエル軍によるレバノン東部ベカー渓谷(高原)への夜間攻撃で、少なくとも41人が殺害され、40人が負傷した。ヒズボラが拠点とするベカー渓谷は、激化する敵対行為の中心地となっている。
死者にはレバノン兵3人が含まれる。地元住民は、複数の子どもを含む民間人が犠牲になったとしている。
ベカー渓谷ナビシートへの攻撃の目的は、40年前にレバノンで行方不明になったイスラエル空軍兵の遺体の収容とされる。
地上部隊投入と大規模空爆
ナビシートでは7日、墓地の一角が掘り返され、穴が残っているのが見つかった。
「ここに(イスラエル兵の遺体が)あると思ったようだが、何も出てこなかった」のだと、地元の男性は空の墓を示しながら語った。
町の別の場所では、破壊された車両が見つかった。車体のいたるところに銃弾の痕があり、車の座席は血で赤く染まっていた。
周辺地域では複数の建物が破壊され、がれきの山ができていた。地面には巨大なクレーターがあり、周囲の家屋が被害を受けていた。
がれきの中には、子ども用の塗り絵や調理器具など、民間人の生活の痕跡も残っていた。
同地域を掌握するヒズボラは、ジャーナリストがナビシートに立ち入り、イスラエル軍による破壊の規模を確認するのを認めた。
ヒズボラは、イギリスやアメリカなどからテロ組織に指定されている。
レバノン軍は6日遅く、シリアとの国境付近でイスラエル軍機4機を確認。うち2機がレバノン領内に着陸し、特殊部隊を地上に展開させたという。
これと同時に「大規模な空爆」が始まったと、レバノン軍は説明した。
レバノン側の部隊は、イスラエル特殊部隊の降下地点を特定するために照明弾を使用するなど、「即時警戒・防衛措置」を取ったという。レバノン軍はこれまで、ヒズボラとイスラエルの戦闘から距離をおこうとしてきた。
ナビシートではその後、イスラエル部隊とヒズボラ戦闘員、自宅を守ろうとする民間人との間で衝突が起きた。

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大規模な爆発が起きた現場の一つで、地元当局者は「私たちは真夜中に(ナビシートの)一角で奇妙な動きに気がついた。それが、任務のために展開するイスラエル特殊部隊だった」と話した。
「抵抗勢力が彼らを包囲し、激しい衝突が起きた。その後、(イスラエル)空軍は部隊が撤収できるように空爆を強化し、これが甚大な被害をもたらした」
ヒズボラと地元住民によると、イスラエルは特殊部隊の撤退を支援するため、同地域に約40回の空爆を実施した。
複数の目撃者はBBCに対し、ナビシートに入ったイスラエル兵はレバノン軍の服を身に着け、ヒズボラが運営する保健機関の標章がついた救急車を使用していたと証言した。
レバノン軍司令官は後に、これが事実だと地元メディアに認めた。
これについてイスラエル国防軍(IDF)は、BBCのコメント要請に応じなかった。
住民が犠牲に
イスラエル軍は町の広範囲に、避難命令を出している。複数の住民によると、作戦開始の少し前にも、民間人に自宅を離れるよう指示があったという。
今回の攻撃でおじなど親族が犠牲になったというモハメド・ショクル氏は、家の中にはヒズボラに関わるものは何もないと分かっていたので、自分や家族は比較的安全だと思っていたと話した。
「おじとその息子は退役軍人で、もう1人の息子は教師だ。私たちはどの政党にも属していない。私たちはシーア派なのでヒズボラを好意的に見ているが、ヒズボラのメンバーではない。私たちはみんなレバノン軍にいた」
「私はきょう何をどう感じていればいいのか。私のおじとその子ども、そして彼らの子どもが犠牲になってしまった」

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モハメド氏によると、別の親族は、がれきの下敷きになっている家族を助け出そうとブルドーザーで駆けつけた。しかし、町中で衝突が起き、この親族は流れ弾で死亡したという。
別の住民も、この地域での犠牲者として、モハメド氏のおじやほかの親族の名前を挙げた。
イスラエル軍は、BBCのコメント要請に応じていない。
ナビシートでは7日、軍事作戦の最中に町にいた住民や、ほかの場所に避難していた人々が、地面にできた大きなクレーターの周りに集まっていた。被害状況を確認し、何が起きたのかを把握しようとしていた。
アリ・シャクールという名前の男性は、「(イスラエルが)何もかも爆撃した。こんなの狂っている」と述べた。
「(イスラエル側は)全員避難したと思っていただろうから、爆撃の際に人がいたことに驚いたと思う」
ナビシートで暮らす別の男性によると、住民は子どもたちを避難させた。しかし、過去に経験したような攻撃になるだろうと思い、町に残った人たちもいたという。
「(イスラエルは)ふだん、2~3軒の住宅を攻撃するが、(今回は)違った。(攻撃は)途切れなかった。見ての通りの規模だ」と、男性は述べた。「だが私たちはここの抵抗者だ。そして実際に抵抗した」。
破壊された家々を歩き回っていた女性は、こう叫んだ。「イスラエルは私たちを不当に攻撃している。私たちはヒズボラだ。勝つのは私たちだ」。
「容赦なく活動を続ける」と
IDFは、今回の夜間作戦で自軍には負傷者は出なかったと発表した。
そして、「イスラエルの息子たち、つまり戦死者と行方不明者を故郷へ連れ戻すという深い責務のもと、昼夜を問わず、容赦なく活動を続ける」と付け加えた。
1986年にレバノンで行方不明になったイスラエルの軍人ロン・アラド氏の妻タミ氏は、イスラエル指導部に対し、IDF兵の命を危険にさらさないよう訴えた。
「政策決定者たちはこれまで、私たちの言葉を理解してこなかった。私たちはそう認識している。だからこそ私たちは、はっきり言わなくてはならない。ロンに何が起きたのか、私たちは知りたい。しかしその願いは、IDF兵に危険がおよぶ瞬間に途絶える」と、タミ氏はフェイスブックに投稿した。
「戦士の遺体を埋葬のために取り戻すことよりも、生命の尊厳の方が、私たちには大事だ」
IDFは7日に別の声明で、レバノン南部と東部ベカー渓谷への夜間の空爆で、ヒズボラの武器と「ヒズボラのテロ組織に属する軍事拠点」を攻撃したと発表した。
IDFは、ナビシート周辺での空爆目標に関するBBCの問い合わせに応じなかった。
レバノン保健省によると、レバノン各地では2日以降、イスラエルの軍事行動で少なくとも294人が殺害された。
ナビシートでは、悲嘆に暮れる人がいる一方で、反撃を受けたイスラエル部隊が遺体を収容できなかったことを知り、勝ち誇った様子の人もいた。
地元の男性は、「(イスラエル部隊は)堂々と乗り込んできたが、反撃に倒れて撤退した」と述べた。











