英スコットランド議会、「支援を受けた死」認める法案を否決

スーツ姿の男性2人が抱擁を交わしている。顔が見える方の男性は落胆した表情をしている

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画像説明, 法案を提出したスコットランド議会のリアム・マッカーサー議員
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アンガス・コクラン上級政治記者(BBCスコットランド)

英スコットランド議会は17日、「支援を受けた死」法案を否決した。成立すれば、イギリスの連合王国の中で初めて終末期の成人の「死を選ぶ権利」を認める国となる予定だった。

この法案は、正常な判断力をもつ終末期にある成人が、自分の人生を終わらせるために医療的な支援を求められるようにするもの。気持ちのこもった最終審議の後、賛成57票に対し反対69票で否決された。

反対派は、当事者が「支援を受けた死」を選ぶ圧力をかけられる恐れがあるなど、いくつかの懸念点を挙げていた。

一方、この法案を提出した野党・スコットランド自由民主党のリアム・マッカーサー議員は、「死にゆくスコットランドの人々とその家族が経験する苦痛とトラウマに対する、著しく不十分な対応だ」と非難した。

「Assisted dying(支援を受けた死)」は一般的に、患者が医療従事者から処方された薬を服用し、自ら命を絶つことを指す。医療従事者が患者に薬を投与する安楽死とは区別される。

スコットランドの法案は、医療従事者や認可を受けた保健従事者が、要件を満たした患者に、自らの人生を終わらせるための薬を渡すことを合法化する内容だった。

それによると、希望者はその意思を裏付ける表明を2回行うほか、希望者が何らかの強制や影響を受けいないかを確認するため、医師による審査を受けることを義務付けていた。

イギリスでは現在、イングランドとウェールズにおける同様の法案がロンドン・ウェストミンスターの議会で審議されているが、今会期に可決される見込みは薄いとされている。

反対派は「強要」に対する懸念を強調

マッカーサー議員は、態度を決めかねている議員らを説得しようと、法案にいくつかの修正を加えていた。

これには、対象を余命6カ月未満の人のみとする内容も含まれていた。同議員は以前、こうした措置に反対していた。

しかし最終的に、マッカーサー議員の努力は実を結ばなかった。

最終討論の中で、法案に反対する議員の口から繰り返し出た言葉は「強要」だった。

左腕がなく、右腕が肘までの状態で生まれたジェレミー・バルフォー議員(無所属)は、障害のある人々がこの法案を「恐れている」と述べた。

バルフォー議員は、同法案は「パンドラの箱」を開けるものだと警告。強要に対する「意味のある保護はあり得ない」と語った。

「最も弱い立場にある人々がどういう影響を受けるかを考えてほしい」と、バルフォー氏は訴えた。

スコットランドでは野党の労働党所属で、車いすを使用しているパム・ダンカン=グランシー議員は、議員らに「死ぬよりも生きることを、より容易にする選択をしてほしい」と促した。

このほか、「支援を受けた死」への関与を望まない医療従事者を保護する仕組みへの疑問や「支援を受けた死」の手続きを承認する医師に対する監督が欠けているといった指摘が上がった。

緑やオレンジを基調としたプラカードを掲げた抗議者たちの前に、黒い車いすに乗った女性がいる。女性は白いワンピースを着ている。プラカードには「自殺幇助(ほうじょ)への扉を開けるな」「少数への選択は多数への強制だ」「人を傷つけるな」などと書かれている

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画像説明, パム・ダンカン=グランシー議員(中央)と、法案に反対する人々

反対派はまた、緩和ケアの改善に重点を置くべきだと主張した。

与党・スコットランド国民党(SNP)のルース・マグワイア議員は、提案にかかる費用への懸念にも触れつつ、「適切な緩和ケアを利用できないのであれば、それは自発的な選択ではない」と述べた。

マグワイア議員は、2021年にステージ3の子宮頸がんと診断され、余命が限られている自身の状況についても語った。

「治療の選択肢を検討する中で、病院の一室に座り、医師から『支援を受けた死』の提案を受けることを考えると、血の気が引く思いだ」

支持派は人々に「選択肢を」と訴え

法案を支持する側からも、力のこもった発言がいくつもあった。

マッカーサー議員は、がんのため陰茎の切除を余儀なくされた男性の例を挙げ、この男性が「人生を終わらせてほしいと懇願する」状況に追い込まれたと話した。

討論を通じて、同議員は建設的で節度ある姿勢を示したと称賛を受けた。

しかし、普段の温厚な口調から一転し、法案の基本理念には賛成しながらも第3段階で反対に回るのは「良い態度とは言えない」と議員らに訴える場面もあった、

「ジャージー島やマン島を含め、世界各地で増え続ける国や地域で、別の方法があると証明しているように、私たちは改善できるし改善しなくてはならない」と、マッカーサー議員は語った。

「今がその時だ。この法案がそのためのものだ。死に直面しているスコットランドの人々が、我々に切実に求めている変化だ」

「議員の皆さんが自らの信念に基づき、勇気を示すことを切に願う」

スコットランド緑の党のローナ・スレーター議員は以前、自分の父親がカナダで「すばらしい支援を受けた死」を選んだと語っていた。審議の場では、父親の最期の瞬間を述懐しながら、涙をこらえた。

「私たちは皆、選ぶ権利を持つべきだ」と、スレーター議員は他の議員たちに主張した。

SNPのジョージ・アダム議員は、多発性硬化症(MS)の妻ステイシー氏に言及した。ステイシー氏はこの日、傍聴席で審議を見守っていた、

アダム議員は、「もし彼女に最悪の事態が訪れ、人生の終わりに耐え難い苦痛に直面したなら、彼女は選択肢を希望するはずだ」と述べた。

国民保健サービス(NHS)の医師でもあるサンデシュ・グルハニ議員(スコットランド保守党)は、自分の患者が「犬でもこんなふうには死なせないだろう」と語ったエピソードを紹介し、人々が「孤独に、恐怖の中で、激痛に苦しみながら」人生を終える事態を止める対応が必要だと訴えた。

支持派は、議会はより良い緩和ケアと「支援を受けた死」のどちらか一方のみを選ばされているわけではないと主張。

スコットランド自由民主党のアレックス・コール=ハミルトン党首は、この法案が「強力な安全の枠組み」を提供すると強調した。

人々がプラカードを持って集まっている。テーマカラーとしてピンクと青を使ったプラカードやTシャツには、「尊厳ある死を」「我々に選択肢を」などと書かれている

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画像説明, 尊厳ある死を支持する人々も集まった

マッカーサー議員の「支援を受けた死」法案は、スコットランド自治政府に権限が委譲された1999年以降でスコットランド議会に提出された同様の法案としては3件目。しかし、採決の第1段階を通過したのは今回が初めてだった。

この法案について、議員には党議拘束のない投票が認められていた。

スコットランド自治政府は中立の立場を取っているが、ジョン・スウィーニー・スコットランド第一大臣(首相に相当)は反対した。

閉会後、スウィーニー首相は記者団に対し、「ほっとしている」と語った。

この法案は、基本理念についての第1段階の採決で、比較的余裕のある14票差で可決された。

しかし、最終採決の通過は当初から困難だとみられていた。第1段階では、法案そのものに賛成したわけではなく、この問題は深く議論されるべきだとの立場から賛成票を投じた議員が複数いた。

この法案は、同議会では異例の金曜開催を含め、5回にわたって審議された。

最終的には、第1段階で法案を支持した議員のうち12人が、第3段階で反対に回った。

「打ちのめされている」とマッカーサー議員

採決後、マッカーサー議員は記者団に「打ちのめされている」と語り、後悔する議員もいるだろうと警告した。

一方で、今回の問題は「消え去るものではない」とも付け加えた。

尊厳ある死を求める活動団体「ディグニティー・イン・ダイイング(死に尊厳を)」のアリー・トンプソン氏は「非常にがっかりしている」と述べた。

トンプソン氏はBBCスコットランドニュースに対し、「スコットランド全土の死にゆく人々は今夜、大きな打撃を受けた。今回の採決は、安全にも思いやりにも反するものだ」と批判した。

一方、反対の立場の団体「ケア・ノット・キリング(殺害ではなく世話を)」代表のゴードン・マクドナルド医師は、安心したと話した。

「この法案は、障害のある人々や家庭内暴力(DV)の被害者を含む、社会で最も弱い立場にある人々に、深刻な危険をもたらすと考えている」と医師は述べた。