【解説】米・イラン協議の窓がごくわずかに開いたか……しかし戦争早期終了の展望は見えず

爆撃された建物の中に立つ女性が、がれきの山を見下ろしている

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画像説明, 米国とイスラエルによるイラン攻撃は、テヘランの住宅地を破壊し、そこに暮らしていた人々の生活を一変させている。写真は21日、テヘラン
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リーズ・ドゥセット 主任国際特派員

アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イランとの「非常に強力な協議」という劇的な表現を使った。「中東での敵対行為が、完全かつ全面的に解消される」かもしれない展開へ、外交の扉が大きく開かれたことを、トランプ氏はうかがわせた。

しかし、イランはほとんど即座に、協議が始まったとの主張を否定した。現在のところ、開きつつあるのはごく小さい窓の、ほんのわずかな隙間にすぎない。

(編注:米・イスラエルのメディアは24日、アメリカが戦争終結を目的と​した15項目​の計画をイランに⁠送付​したと伝えている。トランプ氏は同日、イラン側の交渉担当者がアメリカに、石油とガスに関連する「非常に重要な贈り物」を与えたと述べ、これによって「こちらは適切な相手と取引している」と分かったと話した)

隙間の一つは、昨年2月と6月の外交努力の際に砕け散ったままの、交渉の窓だ。アメリカが後押ししたイスラエルによるイラン攻撃によって、残っていたわずかな信頼までも破壊された。

以前の協議を主導した2人、イランのアッバス・アラグチ外相とアメリカのスティーヴ・ウィトコフ大統領特使の間には、多少のやりとりがあると言われている。しかし、両者の会話はごく初期のものとされている。

そして、イラン政府は、ウィトコフ特使の外交ルートを偽装工作とみなしている。

「アメリカ大統領の発言は、エネルギー価格を引き下げ、軍事計画の実行までの時間を稼ぐための取り組みの一環だ」と、イラン外務省は反論した。

他の観測筋も、同じ受け止め方だ。トランプ氏に対しては、原油価格を引き下げ、株価を引き上げるよう求める圧力が高まっている。アメリカを含めた世界中の経済にショックをもたらしている、この危険な戦火の終結に向けた進展があったと打ち出すよう、大統領は求められている。

トランプ氏は依然として、ヴェネズエラで訪れたような機会を探している。ヴェネズエラの新しい暫定大統領、デルシー・ロドリゲス氏のような存在が、影響力がありつつ現実的で、かつ自分の意のままにできそうな指導者が、イランでも現れないかと探し求めているのだ。

この戦争の開始当初、トランプ氏はヴェネズエラが「イランにとって完璧なシナリオ」だと述べた。しかしこの発言は、改革派を排除し、反対意見を抑圧しながら、ほぼ50年かけて体制の存続を何より優先して構築された、イランの多層的な政治システムを、彼がいかに誤解しているかあらわにした。

ベージュ色のシャツを着てマイクを手に話すガリバフ氏。めがねをかけ、ひげをうすく伸ばしている

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画像説明, トランプ氏はガリバフ国会議長を、イランの治安当局と政治体制の橋渡しになり得る人物とみている。写真は、テヘランの集会で演説するガリバフ氏(資料写真)

しかしトランプ氏は今、アメリカはイラン・イスラム共和国の「トップの人物」と協議しているのだと主張する。

最初にイスラエルのメディアが報じた後、広く取り沙汰されているその人物は、モハンマドバゲル・ガリバフ国会議長のことだ。

ガリバフ氏は、警察長官、革命防衛隊(IRGC)空軍司令官、そして国会議長など、イランの体制中枢で要職を歴任してきた。

大統領選には4度出馬したがいずれも敗れ、2月に全国各地で変革を求めて街頭に立ったイラン国民を「敵とテロリスト」と呼んだ。

だがトランプ氏の世界では、ガリバフ氏は、イランの治安当局と政治体制を橋渡しできるかもしれないストロングマン(強権的リーダー)とみなされる。

複数の消息筋によると、ガリバフ氏との対話を開こうとする間接的な働きかけはある。しかし、成功したという公式または公的な兆しはまだ明らかになっていない。

イランにとって、この対話には依然としてきわめて大きいリスクが伴う。イスラエルはこれまで、イラン体制の仕組みをとことん機構を熟知していた強硬派、国家安全保障最高評議会(SNSC)のアリ・ラリジャニ事務局長を含め、国の首脳を次々と暗殺しているからだ。戦争終結に向けてもし本格的な協議が始まるならば、故ラリジャニ氏は交渉の仲介役になり得るとされた存在だった。

ガリバフ議長は、イランの意思決定を主導する特に強硬な勢力の一角に深く食い込んでいる。ラリジャニ氏の暗殺後は、いつか取引できるかもしれない相手として、ガリバフ氏が注目されている。

「最後に残った一人で、思想的にもほかより柔軟だと見られている」のだと、さまざまな仲介努力に詳しい消息筋は話す。「しかしトランプ氏でさえ、自分がその名前を挙げれば殺されてしまうと言った。そしてイスラエルはその直後に、彼の名前を公表した」。

「これが最も注目すべきルートだ」と、欧州外交評議会の上級政策フェロー、エリー・ゲランマイエ氏も話す。

ただし、実際に動きがあるかは不透明だ。

「アメリカとイランが政治的突破口に近づくまでは、双方ともそのレベルでは会談しない。それより先の段階でも、多くの交渉が必要だ」と、ゲランマイエ氏は言う。

ガリバフ氏はこれまでのところ、ソーシャルメディアでのトランプ政権攻撃を主導している。

23日にはソーシャルメディア「X」で、「我が国民は、侵略者を完全かつ屈辱的に罰することを求めている」、「アメリカとの交渉は一切行われていない」と書いた。

双方の隔たりは大きく、しかも戦争状態にあり、ガリバフ氏を含むイラン側の要人は、自分自身と体制の存続を最優先にしている。このような状況での会談は、きわめて大胆な展開になる。

現時点の外交の大半は、電話で行われている。仲介者たちは、深まる泥沼から脱する道を探りながら、複数の項目からなる提案を模索している。

イランをめぐる危機は長年続くものだが、今回は、戦争そのものの最前線にはなっていないパキスタン、エジプト、トルコといった国々が、仲介に新しくかかわっている。各国の指導者はトランプ氏と個人的に近い上、参加が拡大されたアラブ・イスラム諸国の集まりでも各国は積極的に動いている。

伝統的にイラン政府が最も信頼する仲介国オマーンも、緊張緩和と、重要なホルムズ海峡の再開を目指す取り組みに関与していると述べている。

空港のフェンスの向こうで巨大なオレンジ色の炎と黒煙が上っている

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画像説明, イランは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ国際空港を含む湾岸地域の多くの隣国を攻撃している。写真は16日、ドバイ国際空港

しかし、アラブ湾岸諸国の多くの指導者は、自国のインフラを攻撃したイランの「無謀な」行動に激怒し、関係の見直しに重点を置いている。「この亀裂を修復するには数十年かかる」と、湾岸国の高官の1人は私に話した。

パキスタンは、軍・政治の指導者がトランプ氏に接近している。トランプ氏がイランのエネルギー施設を攻撃するという危険な瀬戸際戦術を取った後、事態を沈静化させる道として、早ければ今週末にも高官協議を開催する用意があると申し出た。

パキスタンについて興味深かったのが、イランの新しい最高指導者モジタバ・ハメネイ師の最近の声明だ。モジタバ師は、父がパキスタンを愛していたと国を名指ししたのだ。モジタバ師の父、前の最高指導者アリ・ハメネイ師は戦争開始直後に殺害されている。

しかし、何かしらの会談があったのかなかったのか、正式な確認は依然としてない。

「現時点では協議は行われていない」。シンクタンク「国際危機グループ」のアリ・ヴァエズ氏はこう言い、アメリカとイランの間でやりとりされているメッセージは「停戦交渉を一気に再始動しようとする動き」だと説明した。

「だが、真剣な会談や実質的な協議を行うための共通基盤を、必要なだけ形成できる段階には、まったく近づいていないと思う」と、同氏は警告した。

そして、この戦争がじりじりと続く中、イランは高い代償を求める方針を明示している。

イランはすでに、米政府にとって受け入れようのない要求リストを公表している。その内容は、米軍基地の地域撤退、賠償、将来の攻撃を防ぐ確固たる保証などだ。

対する側の要求も強硬化している。湾岸アラブ諸国は、イランの弾道ミサイルを交渉の対象にすることと、この戦争でイランが兵器化しているホルムズ海峡の管理についての取り決めを求める構えだ。

深い不信と理解の断絶が残る。このため、多くの関係者が協議について懐疑的だ。

「トランプ氏は、自分の条件を受け入れるようイランへの圧力を高めるための新しい『てこ』を、この戦争で手にしたと考えている。そしてイラン側は、自分たちの立場を強化しただけでなく、ホルムズ海峡という新たな交渉カードも得たとみている」。イランの話題を主に扱うニュースサイト「Amwaj.media」 の、モハンマド・アリ・シャバーニ編集者はこう言う。

協議開始を発表した投稿の中で、トランプ氏はイランの発電施設を攻撃するという自分の脅しを5日間延期すると述べた。世界が注目する新しい期限はつまり、27日に市場が閉まるタイミングだ。